「システム化」=「仕組み作り」

「見えないところにほこりがたまる」

これが長年、中小企業を見てきた自分が感じた偽らざる実感です。
見える部分が磨きこまれていても、ひと目につかないところに、ゆっくりと、しかし確実に汚れやほこりがたまっていく・・・。

これはなにも掃除のことを言っているのではありません。
会社を営んでいく上での非効率、停滞、見過ごし、見落とし、事故、不正などのことを言っているのです。
私はおよそ20年間にわたり、中小企業のバックオフィスに関わってきました。
最初の数年間は会計事務所の職員として、税務申告や会計処理、会計ソフトの導入のサポートなどを行いました。大学を卒業してまもなくの頃だったため、人に教えたり指導したりというよりは、むしろいろんな会社のそろばん勘定をさせていただく中で、逆に実際の会社がどのように営まれているのかを学ばせていただいた数年間でした。

ちょうどその頃、パソコンが急速に普及し、会計事務所の職場にもパソコンが入り込んできました。それまでのコンピュータと言えば、オフコンと呼ばれる高額なコンピュータが電算室に鎮座し、かわるがわる交代で使うといった代物で、とても個人で一人占めできるものではありませんでした。

パソコンが普及することで、まさにコンピュータが「パーソナル」なものになり、個人の裁量でパソコンを活用することで、業務効率が向上することを実務の中で実感することになりました。会計事務所の仕事は労働集約性が高いため、パソコン導入による効果は特に劇的なものがありました。今まで残業をしなければ終わらなかった仕事が、パソコンのワープロや表計算などを利用することによって、定時に終わるようになったのです。

当時はまだインターネットも普及する前で、パソコン通信に電話回線を使ってダイヤルアップするような時代です。パソコンを買ってきても、一般レベルではゲームなどのホビーユースが中心で、
「パソコンを買うのはいいけれど、一体なにが便利になるの?」
と言われ、その利便性を具体的にイメージしにくい状況にありました。企業においても、一部を除いて、パソコンを業務に活用するという考え方は一般的ではありませんでした。
そんな中、私自身がパソコン導入で受けた恩恵を、なんとか人に伝えたいと思いました。そして出来れば、これを職業としてみたいと思いました。しかし自分自身、パソコンの専門家ではありませんし、プログラムを開発できるわけでもありません。専門家として人の役に立つことができるのか、そもそも職業として成立するのか、そんなことで悩みました。
しかし、
「パソコンの専門家にはなれないけれど、パソコンを会社の業務に活用する専門家にはなれるのではないだろうか?」と考えることができ、IT(当時はそんな言葉はありませんでしたが)と会計の間で、システム導入のサポートをする事業を始めました。最初は単にパソコンのセットアップをしたり、反対に会計の記帳の代行業務をしたりといった仕事もありましたが、徐々に経験を積むことによって、結果、ITでも会計でも、そのどちらの専門家でもない、橋渡しをするいわば通訳のような存在として、専門分野を確立しました。

起業後の10数年は、ITシステムの導入コンサルティングの仕事をやってきました。

ITという便利な道具は、ともすれば諸刃の剣になります。非効率な仕事、方向違いな仕事をそのままITで加速しようとしても、便利になるどころかかえって矛盾点が大きくなってしまい、不便なものになってしまいます。よく、ITで導入されるソフトウェアやハードウェアのことを「システム」と表現しますが、まさにIT化は「システム=仕組み」づくりなのです。仕組みがきちんとできてこそ、初めてITは大きな効力を発揮します。IT化を成功させるためにも、その前提としての会社の仕組みづくりにもかかわっていくのは必然的な流れでした。もともとは仕事にパソコンを活用してもらいたくて始めた事業ですが、いつのまにかもう少し大きな枠組みで、中小企業に関わるようになっていったのです。

その後個人で始めた事業は法人となり、私個人や会社として、約2000社の中小企業の仕組みづくりをサポートしてきました。
「今なにを行い、何が問題になっているか?」
「今後どのようにしたいと思っているか?」
を明らかにし、どのような業務をどんな手順で誰が行うのかを決めて仕組みとし、その導入・定着を支援する仕事です。その中でのITの役割はあくまでも手段です。

中小企業と接してきて感じるのは、とにかく「仕組みが出来ていない会社が多すぎる!」
ということです。

社長さんにシステム化のご提案をすると、大きな投資をしてコンピュータやソフトウェアを導入することだと考え、
「うちのような小さな会社ではとてもそんな余裕はない」
とおっしゃる社長さんがいらっしゃいます。
これはとてももったいない考え方だと思います。
別に大金を投資することがシステム化ではありません。会社としての仕組みを作ることがシステム化なのです。

「システム化」とは、「ルール作り」と言い換えることが出来ます。
大企業などはルールのオンパレードです。時に、
「なんでそんなルールを作るのか?かえって動きづらくなってデメリットのほうが大きいのに」
と思うこともあります。
ではなぜ、マイナス面もあるルールをあえて作るのでしょうか?
それは、ルール化・仕組み化によって得られるメリットも大きいからです。

ここでは、なにも大企業の真似をしろ、と言うつもりはありません。
中小企業のフットワークの身軽さは大切な長所ですから生かして行かなければなりません。
しかし、あまりにも仕組みがなさ過ぎます。

中小企業が仕組みを作れない理由、それは、すべてにおいて個人の能力に頼りすぎているからです。
「かつて、とても優秀だった社員がやがて独立し、多くのお客様を獲得した。ひとりではとてもこなしきれない業務量を処理するためにひとり、ふたりと人を雇い、やがて今の会社の規模になった」
多くの中小企業は、こんな経緯をたどって今に至っているケースが多いのではないでしょうか。
この場合、仕組みづくりは後回しになっています。社長さんの優れた能力によって獲得してきた仕事を、とにかくさばくために人が集まってきたのです。そこで取られているのは人海戦術です。

集まってきた人たちは、それぞれのスキルや経験、ノウハウを駆使し仕事を進めます。運が良ければ優秀な人を採用することが出来、会社は発展するかもしれません。しかし、運が悪ければどうでしょうか?残念ながら社長の思うほどに社員は活躍してくれません。ひょっとしたら悪いことをする人も出てくるかもしれません。
社長さんは、「10人集まれば10人力だ!」と思っていても、10人で3、4人のパフォーマンスしか発揮できないかもしれません。
会社に仕組みがないということは、人が組織として機能しないということです。会社の業績が個人のパフォーマンス頼りになってしまうということなのです。

会社を確実に発展させたいと思うのなら、もうこのように「クジ運」に頼るような経営はやめなければなりません。優秀な社員の仕事は、会社の中にノウハウとして蓄積して他の社員の仕事にも生かされるようにしなければなりません。問題のある社員の仕事は、全員で問題の原因をつきとめ、解決に当たらなければなりません。そうして、会社としての平均点を底上げしてこそ、中小企業の経営力は上がっていくのです。

そのためには、今社員が何をやっているのかを「見える」ようにして、社長自身が把握できるように努める必要があります。社員が今、何をやっているのかがわかって初めて、そこに仕組みを作ることが出来ます。

ところがこれが思いのほか難題です。
個人の能力に頼った結果、そこでなにが行われているか、社長自身にすらわかっていないことが多いのが実情だからです。
もちろん、社長はスーパーマンではありませんから、自分の得意分野以外のことについては、それほど専門知識があるわけではありません。あるジャンルについては社員のほうがはるかに詳しい、ということもあるでしょう。
そんな分野の仕事のことを、社長は把握しきれているでしょうか?また、その社員がきちんと能力を発揮し、会社に貢献しているかどうかを判断できるでしょうか?

中小企業は、企業の経営資源と言われる、ヒト・モノ・カネが絶対的に不足しています。確かに、モノ・カネの面においては、なかなか自由に出来ない部分もあります。しかし、「ヒト」の面においては、現有勢力を最大限生かしていくことによって、今よりもまだまだ効率的な経営が可能になるのです。

社長がシステム化を「そんな余裕はない」と頭ごなしに否定する背景には、
「そんなコストは掛けられない」という意味が隠されていると思われます。
しかしシステム化とは、「モノ」にお金をかけることではなく、実は「ヒト」を最大限生かすための仕組みづくりのことなのです。
そう考えると、システム化にかかるお金はもはやコストではありません。
それによってリターンが得られる、「投資」なのです。
つまり、投資対効果を考え、投資よりもリターンが大きいのであれば、是非とも取り組むべき最重要課題なのです。
それにはまず、仕事を「見える化」し、その上で、「仕組み」を作る必要があります。これこそが「システム化」なのです。

中小企業は「仕組み化」の分野で大企業より絶対的に遅れている。これは残念ながら事実です。私はこの事実をなんとか変えていきたいと思っています。

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